そ、そんな……っ!
記憶喪失で自分のことも何一つ覚えていないのに、どうして母親の名前が分かるのだろう? 大体、何故母親が亡くなったのかも分からないのに!?
「あ、あの……そ、それは……」
背中に冷や汗が流れる。そう言えば父の話では私は兄達から嫌われているようだった。と言うことは……私を追い出す為にこのような質問をしているのだろうか?
「どうした、ユリア。やはり答えられないのだな? だったら……」
シリウスお兄様目が怪しく光る。
「ああ、答えられないのだったら……」
その時――
バタンッ!
突然扉が大きく開け放たれ、お父様が部屋の中に現れた。
「アレスッ! シリウスッ! お前たち、ユリアの部屋で何をしているのだ!」
「あ……父上……」
「父上!」
アレスお兄様とシリウスお兄様が驚いたようにお父様を見る。
「一体お前たちという奴は……1年ぶりに帰ってきたかと思えば私の所へ顔も出さずにユリアの元へ行くとは……一体何を考えているのだ!?」
えっ!? そうだったの!?
「そ、それは……」
「ユリアの様子を見に……長男としてユリアの様子が気になったので……」
2人の兄はオロオロしている。
「それにお前たち……ユリアは記憶喪失だと言っているだろう? それなのに母親の名前など答えられるとでも思っているのか!? 一体何を考えているのだ!」
「「……」」
あ! 黙ってしまった! やっぱり私が答えられなかったら難癖をつけてここから追い出すつもりだったのかもしれない!
「……とにかくお前たち2人には話がある。荷物を置いたら速やかに私の執務室へくるように」
「え? 荷物?」
その言葉に驚く。何とよく見れば私の部屋の入り口に大きなトランクケースが2つ置かれているではないか。この2人は自分の荷物を持ったまま私の部屋にやってきていたのだ。
「「はい……」」
2人の兄は不満そうに返事をすると父に連れられ、トランクケースを引っ張りながら私の部屋を出ていった。
「ふぅ……やっといなくなってくれたわ……」
安堵のため息をつきながら、この先のことが非常に不安になってきた。
「私……このまま何事もなく、この屋敷にいられるのかしら……」
そして私は不安な気持ちを抱えつつ、再び勉強を再開した――
****
19時――
カチャカチャカチャ……
久しぶりに家族全員一家揃っての食事の団欒席……。それなのに、誰1人